スターの条件
新緑の季節がやってきた。窓を開けるとジャスミンの香りが風と共に通り過ぎていく。このあとやってくる灼熱の夏を想像すると外にでるチャンスは今日しかないとさえ思ってしまう。それなのにテルオを連れ出せない。こんなにお散歩日和なのに。やっと訪れた春なのに。
そう、3回目のワクチン接種までは外出禁止なのだ。(もうしばらくの辛抱だ。あせるな、あせるな。)そんな時、自分を納得させるための言い訳がふたつある。ひとつはテルオの「噛みグセ」だ。今散歩に連れ出し、万が一にも他人を噛むようなことがあったら大変だ。
ふたつめは「反抗的態度」だ。特に朝のテンションが高い時に怒ると刃向かってくる。そんな時は後ろから首を掴み床に伏せて教育的指導をする。金澤さんの教えだ。もし散歩中に私の言うことを聞かずに他の犬とトラブルを起こしたら大変だ。やらかす前にきっちり上下関係を教え込んでリードしなければ。
今はこの2点を改善するために必要な時間なのだと自分を納得させるしかない。しかし、ずっと家の中だけではさすがにイライラもする。地面に降ろさなければ大丈夫かとバッグに入れて外出することになった。するとどうでしょう。通行人がすれ違うたびに「カワイイ〜」と声をかけてくれるではないか。普段、人にほめてもらうことなどない家族たちは完全に舞い上がった。
テルオが入った赤いバッグの奪い合いがはじまる。
あぁ、勘違いはこわい。チヤホヤされているのはあくまでテルオなのに。でも、、、超きもちいい〜。
またある時は、ひょんなことからテレビに出ることになった。MBCの「かごしま4」という番組だ。その頃になると浮かれた家族たちのギアがさらに一段入り、勘違いのスピードが加速していく。もはや子役タレントの親御さん気取りだ。
一方リハーサルを終えたテルオは、本番に備えスヤスヤ寝息をたてていた。
そしてスタッフさんから呼ばれると、すくっと起き上がり、デビュー前からスポットライトを浴びることを約束されていた昭和スターのように堂々とスタジオに入るのだ。
本番では見事にかわいらしいワンちゃんを演じきった。
そしてこのテレビ出演をきっかけに一気にスター街道を突っ走るかにえたテルオだったが…
数日後、なぜか元気がない。
あの食いしん坊が何も食べない。
嘔吐もひどくなってきた。
こんなんだったら、まだやんちゃなテルオのほうがいいよ。
翌朝も変わらない。有頂天だった娘たちもすっかり正気に戻りテルオを気遣う。私はテルオを心配しながらも、(国民皆保険制度って犬も含まれてたっけ?)と、心理状態がかなり不安定になっていった。
(テルオ頑張れ!テルオ頑張れ!)
テルオを抱えて足がもつれそうになりながらも全力疾走する自分を想像しながら、実際には車で病院へ急ぐ。
そして診察の結果、先生の口から発せられた言葉に一同驚く。
「なんか余計なものを食べたようです。」
テルオファンクラブ事務局
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